卒業試験は早いもので3年前だ。
プログラム文章論という科目を履修していて、その一環で書いたものだった。
拙い部分もあるかもしれないが、マニアックな曲が出てきた際に誰かの助けになれたらと思い、(そして著作権が存在するわけでもないので)公開してみることにした。
演奏した楽曲は以下の3つ。
Jan Van Landeghem : 3pieces for Alto Saxophone and Piano
Tetsuji Emura : INTEXTERIUR IX
Ingolf Dahl : Concerto for Alto Saxophone and Band
どれもとんでもなく大変な曲だったが、あの時しかできない無茶でもあったと思う。いい思い出だ。
『3 つの小品』はベルギーの若手作曲家、ジャン・ヴァン・ランデゲムによる 2014 年の作品で、アドルフ・サックス 国際コンクールの 2 次課題として書かれた。様々なリズムが 3 曲に通して使われており、3 つの小品と独立を意識さ せるが、全体を通して様式的統一感を見出すことができる。
第1曲 - Klaxo-phone。8 分の 8 拍子で、基本的な拍子のリズムはランダムかつ不平等に 3 分割される。第 1 曲のサイ ズも 3:2:3 の比率を持つ A-B-A の形式となっており、中間部にドラマチックなカデンツァを挟んだ技巧的な小品。 第2曲
- Holy-phone。16 分の 35 拍子を 5 等分した 7 拍子または 7 等分した 5 拍子の、動きの少ない祈りが静かに歌
われる。中間部には動的で技巧的な音型がピアノ、サクソフォンともに掛け合い、激しい転調と共に、瑞々しいすっき りとした響きの中に溢れでるようなエネルギーに満ち溢れている。
第3曲 - Poly-phone。急速な 8 分の 20 拍子と 8 分の 30 拍子を行き来しながら曲は進んでいく。全曲中で最もポリリ ズムが明確、かつ複雑に書かれている。
続いて演奏する『インテクステリア IX』は江村哲二の作品。1960 年、兵庫県生まれ、ほぼ独学で作曲を学び、1989 年 より様々な作品が作曲賞を受賞、1990 年より 1995 年の間に本日演奏する「インテクステリア」シリーズ作品などの 傑作群を生み出し、2007 年には作品集 CD「地平線のクオリア」でアカデミー現代音楽賞を獲得、まさにこれから後 世に残る傑作が生まれると誰もが信じたその年に、膵臓がんによりこの世を去ってしまった。47 歳だった。この作品 はサクソフォン奏者、斎藤貴志の委嘱により作曲された。「インテクステリア」は江村による造語で、<無秩序が生み 出す秩序>といった哲学的な概念を言葉に表したもので、「インテリア」(室内装飾)「エクステリア」(外観、外面)が 組み合わさった言葉。曲は、1つの概念に対し混沌とした要素が入り混じるよう構築されており、例えばテンポとい う概念に対しては、・in tempo(音楽的)・n”(時間的)・ARQP(演奏者にとって最速の速度で)という要素が混沌と入 り混じるなど、それが同じように強弱、音高を始めとする音楽の基本的な概念を様々な要素で作り上げて行く。混沌 を構築するという面において他に類を見ない、現代的な器楽作品としては傑作の1つになりうる作品といえよう。
最後に演奏する『サクソフォン協奏曲』の作曲家、インゴルフ・ダールはドイツに生まれアメリカで没した作曲家。没 した場所がアメリカであったためにアメリカの作曲家として認知されているが、彼の感性が大きく育まれた幼少、青 年の時代はドイツで過ごしていた点を鑑みると、ドイツの文化を持った作曲家であると判断するのが適当であろう。 サクソフォーンとバンドのための協奏曲は 1948 年、シグールド・ラッシャーの委嘱により作曲が始められ、1949 年 に初演、1953 年には再演のために改訂が、さらに 1959 年にも改訂が行われ、現在我々が演奏し鑑賞する機会の多い 版はこの最新のものとなっている。1949 年版においては楽曲は2楽章(現在(後述)の、1,2 楽章-3 楽章と分割され ていた)構成で、30 分もの演奏時間がかかる大作となっている。しかし再演とともに改訂が進み、本日演奏する版は 第1楽章を分割し3楽章構成となり演奏時間は約 20 分程度と縮小されていく。しかしそれでもこの作品はスケール、 音楽的内容をはじめとするサクソフォンの可能性開拓において、多大なる貢献をした作品と言えるだろう。 第1楽章-Recitative。叙唱を意味するこの楽章はサクソフォンを歌曲的に取り扱い、バンドとのアンサンブルの距離感 を巧みに変化させることで、叙唱のみならず詠唱的な側面や、協奏的な側面も覗かせる、自由な序奏。 第2楽章-passacalia。サクソフォンがバンドの提示する主題を情緒的に展開していく。
第3楽章-Rondo alla marcia。ロンド形式によるフィナーレで、バンドが提示する主題に対し様々な曲想をサクソフォ ンが展開していく。最後に技巧的なカデンツァを挟み、急速なフィナーレを経て曲の幕は閉じる。
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